ホソバテンナンショウ-Arisaema angustatum-
Arisaema angustatum Franch. & Sav.(1878)
ホソバテンナンショウ
Enum. Pl. Jap. 2: 507 (1878)
-Synonym-
Arisaema angustatum var. integrum Nakai in Bot. Mag. (Tokyo) 42: 453 (1928)
本種はテンナンショウ属の中でも慣れればかなり容易に識別できる種である。ヨーロッパではA. peninsulaeと同一視する声もあるが、筆者としては受け入れ難い。
葉はふつう2枚、小葉は鳥足状複葉。
小葉間の葉軸はやや発達し、葉軸や偽茎の斑紋は赤みがかることが多い。
仏炎苞は葉より早く、あるいは同時に展開し、舷部の内側は若干の光沢があり平滑。
付属体は下部から上部に向かいやや細くなり、ふつう直立するが稀に前屈する。
1つの子房には5から8個の胚珠がある。
染色体数は2n=28
日本固有で、中部地方、関東地方、近畿地方ほか岡山県に分布し、低山からやや標高の高い森林の林床、特に道路や登山道沿いのやや明るい場所で多く見られる。
似ている種としてはアマギミヤママムシグサ、ミヤママムシグサ、スズカテンナンショウのA. pseudoangustatumグループが挙げられる。
ただしこれらは仏炎苞が葉より遅く展開し、仏炎苞開口部、口辺は狭く反曲する。またミヤママムシグサでは舷部が透き通る。アマギミヤマムシグサは時に本種と混生するが、開花期が遅く、また舷部の内側に微細な特記がある点で識別できる。スズカマムシグサはかなり厄介で、通常舷部の内側の微細な突起の有無で識別するが、スズカマムシグサの一群には突起がないものもあり、スズカマムシグサを含むA. pseudoangustatumグループの今後の整理が待たれる。
またウメガシマテンナンショウにも似るが、こちらも微細な突起が存在し、花序付属体が太く先端がやや膨らむ傾向にある。なお、ウメガシマテンナンショウの一群には突起がないものも存在するため、これらとは見分けがやや難しい。
変異幅は少なく、筆者としては安定した形質を持つように感じる。
仏炎苞は通常緑であり、まれに紫褐色を帯びる個体も確認したが識別できないほどではない。
慣れてくるとある程度簡単に識別できるようになり、雰囲気が掴みやすい種と感じる。
林道脇に自生する個体
仏炎苞舷部の内側、平滑で微細な突起はない
葉の展開と同時か、葉より早く仏炎苞が展開する
わずかに紫褐色を帯びる個体
ヒトツバテンナンョウ-Arisaema monoohyllum-
Arisaema monophyllum Nakai(1917)
ヒトツバテンナンショウ
Bot. Mag. (Tokyo) 31: 283 (1917)
-Synonym-
・Arisaema akitense Nakai in J. Jap. Bot. 14: 629 (1938)
・Arisaema akitense f. variegatum Honda in Bot. Mag. (Tokyo) 5: 439 (1941)
・Arisaema atrolinguum F.Maek. in Bot. Mag. (Tokyo) 48: 48 (1934)
・Arisaema monophyllum f. akitense (Nakai) H.Ohashi in J. Jap. Bot. 61: 172 (1986)
・Arisaema monophyllum var. akitense (Nakai) H.Ohashi in J. Jap. Bot. 39: 23 (1964)
・Arisaema monophyllum f. atrolinguum (F.Maek.) Kitam. ex H.Ohashi & J.Murata in J. Fac. Sci. Univ. Tokyo, Sect. 3, Bot. 12: 299 (1980)
・Arisaema monophyllum var. atrolinguum(F.Maek.) Kurata in J. Jap. Bot. 48: 48 (1934)
・Arisaema monophyllum f. integrum Nakai in Bot. Mag. (Tokyo) 31: 283 (1917)
・Arisaema monophyllum f. serrulatum Nakai in Bot. Mag. (Tokyo) 31: 284 (1917)
・Arisaema monophyllum f. variegatum (Honda) H.Ohashi & J.Murata in J. Fac. Sci. Univ. Tokyo, Sect. 3, Bot. 12: 300 (1980)
さて、本種はテンナンショウ属の中でも比較的識別しやすい種である。
葉はふつう1枚(時に2枚)、小葉は鳥足状複葉となる。
小葉間の葉軸は顕著に発達する。ふつう仏炎苞舷部の内側は黄緑色で光沢があり細脈はなく、”ハ“の字形の濃紫色〜黒色の斑紋がある。
仏炎苞舷部は斜上し、開口部は広い。口辺部は外側にやや巻き込む。
付属体は棒状で細く、ふつう淡黄〜淡緑色、上部でやや膨らむ個体や前屈する個体などもおり、一概にはまとめられない。
1つの子房には6から8個の胚珠がある。
染色体数は2n=28
日本固有で、中部地方、関東地方、東北地方に産する。なお筆者はこれ以外の地域でもそれらしき個体を目撃しているため、個体数こそ少ないものの他の地域にも産する可能性を考えたい。
変異幅はかなり広く、特に仏炎苞舷部の内側の“ハ”の字模様が顕著。
模様がないものを“アキタテンナンショウ”、模様が濃く舷部全体に及ぶものを“クロハシテンナンショウ”と呼称することが一般的である。
アキタテンナンショウタイプ
クロハシテンナンショウタイプ
このタイプは付属体にやや色が入ることがある。
開花始め
通常の個体
ホソバテンナンショウと混成することが多いように思う
こちらもアキタテンナンショウタイプ
通常タイプ、付属体がやや膨らみ前屈する典型的な個体